先週に続いて、LEDバックライトの色再現域について解説していこう。
LEDバックライトを採用した液晶テレビが、“高い色純度を表現できる”、“目がさめるような鮮やかさ”といった形容をされるのは、LEDが非常に狭い帯域の光を放つ特性を持っているからだ。カラー液晶パネルは、バックライトの光をカラーフィルターに通すことで色を表現するが、カラーフィルターは特定の周波数のみを通すわけではない。グラフで表現するとなだらかな裾野を持つ山のような特性になっている。
このためカラーフィルターを透過する光は、例えば“赤”といっても必要とする赤色の周波数を中心に比較的幅広い帯域の光が透過してしまう。それがLEDバックライトならば、赤、青、緑の各LEDが、それぞれに発振する固有の周波数帯を中心に非常に狭い帯域の光しか出さないため、カラーフィルターの特性がなだらかでも透過する光はピーキーなものが取り出せる。
もちろん、カラーフィルターが透過する光の周波数帯をある程度絞ることも可能だが、そうするとバックライトの光を大量に削ることになるため、今度は明るさを出しづらくなってしまう。その点、LEDバックライトは特定の周波数に光が集中しているから、光量を大きく削られることはない。
ただし、これらはすべてRGBの各色用LEDの光を混ぜてバックライトとして使う場合のみ。白色LEDは事情が異なり、青色LEDと黄色を発光する蛍光体を組み合わせることで白色を得ている。このため、青以外の光は周波数帯に広く分散しており、高純度の色だけを取り出すことは難しい。
したがって前記のように”LEDバックライトの液晶パネルは色再現域が広い”という方程式は当てはまらない。白色LEDバックライト採用の液晶パネルが持つ色再現域は、おおむねハイビジョン放送で規定されているBT.709と同程度なため、モニターとしては必要充分なものだが、“ハッとするような鮮やかな色”ではない。
このため、白色LEDではなく、将来のバックライトはRGB LEDアレイになっていくのだという論が出てくるのも無理はない。ところが世の中は別の方向に向かっており、液晶パネルベンダーの多くは将来のバックライト光源として白色LEDを主流に据えようとしている。すでに最大手のサムスンは開発の力点を白色LED採用の液晶パネルへとシフトしはじめており、RGB LEDアレイのパネルは、ごく一部を除いて家電市場からは消えていくだろう(ただしPC用ディスプレイなどは別だが)。
理由は、RGB LEDアレイ方式では必要な光量を確保するためのLED数が白色LEDのみで構成するより多くなることに加えて、白色LEDの発光効率が急激に良くなったためだ。白色LEDは省電力な照明として注目されていることもあり、開発は今後もどんどん加速するように進んでいくだろう。当然、LED1個あたりのコストも下がっていく。
そうした中にあっては、RGB LEDアレイをバックライトに使った液晶パネルが主流になっていく可能性は低い。加えて色再現域が広すぎるがために、それを画質に転換するのが難しいという事情もある。
なぜならハイビジョン放送で使われているITU-R BT.709で規定されている色再現域より大幅に広いため、そのまま表示したのでは彩度が極端に上がってしまうからだ。そこでテレビメーカーは、テレビ放送やDVD、Blu-ray Discなどの映像を美しく示できるように“絵作り”という名の演出を行うのだが、あまり極端に色を強調すると映像から現実感が消え失せてしまう。
かつてRGB LEDアレイをバックライトに採用した最初のテレビが出た頃、デモ映像で使われたフェラーリの赤が、本物のフェラーリではあり得ないほど鮮やかに描写されていたのを憶えているが、あまりに極端な色再現は不自然さしか引き起こさない。上手に使いこなすのは、なかなか難しい。
先週話したLEDバックライトのローカルディミング(バックライト光量のエリア制御)と考え合わせるなら、あえて絵作りが難しく高コストなRGB LEDアレイよりも、白色LEDを多数ならべた方が、液晶本来の弱点である黒浮きなどを含めたトータルの画質を上げることができる。
もちろん、こうした考え方に異論はあるだろう。
今回は白色LED化による利点を知ってもらうために、このシリーズの最終回を書いたが、別の切り口で考えると、RGB LEDアレイには各色のゲインを細かく調整し、バックライトのホワイトバランスを自在に操れるという別の利点もある。重要なことは、色再現域の広さやローカルディミングの分割数といったスペックの数値ではない。LEDをどのような形で生かし、最終製品としてのテレビの画質を上げているのかが重要なのだ。
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